「あら」
「やあ奥さん。ごぶサタデー」
「今日はどうしてこちらに」
「あゝ奥さんは知らないんだ。僕は毎週土曜日の朝は映画館で映画を観ることにしてゐるんですよ。さつきチケットを買つて、今此処で一服してゐる訳で」
「土曜日朝の映画ですか」
「<ドアサ映画の効用>つてのがありましてね、先づ毎日初回の映画は早朝割引つてのがあつて安いんです。通常7,000ウォンくらゐなのが4,000ウォン。名前は早朝なんですけど9時とか10時に開始です」
「まあ」
「それとですね。土曜日の午前中に映画を観ると、土曜日一日中その映画が頭の中にあつて中々佳い感じなんです」
「さうですか」
「一般的にですね、演劇を見に行く日はその日起きた時から演劇が始まつてゐるんだ、なんて言ひますよね。映画の場合はまあ、朝起きた時から映画が始まつてゐるとか、映画館を探すところから映画が始まつてゐるなんていふ言ひ回しはしないと思ふんですが、映画がいつ終るかといふと、それは夜寝るまで、別の映画を観る時までのうちの早い方だと思ふんです」
「ええ」
「つまり、夜映画を観るとその映画が頭の中に残る時間、つまり余韻の時は2、3時間なんですが、朝見れば余韻の時間が十数時間になるつて理屈の訳ですよ。奥さん、これは随分お買得ですよ」
「映画のチケットはすぐ買へるんですか」
「シネコンですからね。余程の人気作の初日などでなければ、6、7種類ある映画の中から好きな物が選べます」
「映画館の中はどんな感じで」
「韓国の映画館はですね、とに角映画館の前でするめを売つてゐるのでするめの匂ひを漂わせながら映画を観るつてのがデフォルトだつた、つまり洋画であれ韓国映画であれ、するめ映画(するめを味はふためのツール)として存在してゐたんですが、シネコンぢやこの文化がなくなつたみたいですね。ポップコーンとコーラで映画を観る様になつてしまひました」
「綺麗なんですか」
「綺麗ですよ。最近の映画館は椅子も座りやすいですしね」
「にやるほど」
「もつとも、韓国の映画館が綺麗だとか全席指定席制だとかはどうでも良いことかも知れませんね。或るホストクラブについて語る時に先づ其のホストクラブのインテリアから語つたりしますか」
「まさか」
「ひとつ、韓国の映画館は客ののりが良いといふことですね。これに尽きます」
「客ののり」
「面白いシーンでは文字通りどつと笑ひますからね。喜怒哀楽がはつきりしてる」
「映画作る人も作り甲斐があるでせうね」
「さうさう。昔<ゴースト>つて映画があつたぢやないですか。あの時犯人が主人公の親友だと分かつた時、場内一斉に<オモモー!>でしたよ」
「オモモー。見てみたかつたです」
「さういつた意味ぢや、坡州の出版団地にある映画館は何時も観客が5人くらゐしかゐないさうで、これぢや映画館で観る楽しみが激減ですよねえ」
[2006-10]