「それに気がついたのはいつですか。
「一昨日の朝です。私は黒のウィングチップと黒のストレートチップを持っているのですが、その日ウィングチップを履こうと思って取り出したら、ウィングチップの靴がストレートチップになっていたんです。二足のストレートチップを眺めながら、『こりゃややこしいことになったぞ』と思いました。
「それに気がついたのはいつですか。
「聞いて下さいよ。先週の金曜日に木洞のカルククス屋で食事をして、外に出ようと思ったら私の靴がないんです。代わりに同じメーカーの靴が残されていました。食堂のおばさんが『他のお客さんが間違えて履いて行ったんだろう』って言ってましたが、そこにあった靴は私のとはサイズが違い、かなりダブダブなんです。どうやったら間違えられるっていうんですか。
「それで、その日は何を履いて行ったんですか。
「27センチと26.5センチの靴があって、26.5センチは明らかに他人の靴です。これは家に置き、27センチの方を履いて出ました。
「それで、そのダブダブの靴を履いてカルククス屋を出たんですか。
「仕方ないでしょ。その靴でオフィスまで行って、後はオフィスに置いてあった靴に履き替えましたよ。
「カルククス屋に電話番号を残されたんですよね。
「まー、その靴は私のより新しい靴だったんですよね。わざと履き違えたとは思えない。連絡が来るだろうと予想はしていました。
「カルククス屋には水曜日に行っていますね。
「はい。靴が入れ替わったのは恐らくカルククス屋だろうってことで、昼食時に同僚とその店に行き、おばさんに訊いてみました。そうしたら、おばさんたちが手をたたいて『お客さん、よく来たわ』。被害者の電話番号のメモを見せてくれました。
「初めて電話がかかって来たのはいつですか。
「水曜日の午後1時か2時ごろです。その時はゴルフしていたんで電話に出られなかったんですよ。午後3時4時ごろに携帯に残っていた電話番号に電話してみて、『電話なさいましたか』と訊いたら『靴を間違えた人間だ』って言うじゃありませんか。靴を間違えたのは仕方ないとしても、金曜日に履き間違えた靴についてなぜ水曜日に電話してくるのか理解できませんでした。履いていて変だって感じないんですかねえ。
「初めて電話した時、どうでしたか。
「必要以上に怒っている気がしました。まあ、誰だって靴を間違えられて嬉しいことはないんでしょうけど、充分にあり得ることでしょう? それと、『今朝靴を履こうとして靴が違うことに気がついた』と言ったらあきれていましたけど、私は土日月火は他の靴を履いていたんです。毎日他人の靴を履いて歩き回っていたわけじゃありません。
「あなたが金次長ですか。
「はい。何人かで中華料理屋に昼食に行った時に杉山さんが靴箱の入った紙袋を提げていたんです。理由を聞いたところ、これこれこれと事情を説明してくれました。『わたしはこういうことの解決師よ。杉山さんよりわたしの方がソウルの地理にも詳しいし、わたしがその人に電話をして靴を取り替えてくるから』と言って靴を預かりました。
「その人は食器の販売会社の社長で、電話で話をしたらとてもいい人でした。最初に電話で話をした時に機嫌が悪かったのは忙しい人だからでしょう。
「靴はさっき運転手と会って交換して来ました。杉山さんが大層申し訳なく思っている、来週あたりに昼食をご馳走したい、と言ってあります。
「靴が戻ってきて良かったですね。
「はい。早く出世して、下足番のおじさんがいる店で食事する人間になりたいです。
[2005-07]