「毎日雨続きで大変ですね」
「やあ、奥さん暫くでした」
「中国語の電話をなさつてたんですか」
「さうなんですよ。実は最近中国語の会話力が急速に衰えて、中国通の韓国人に『中国語の電話レッスンを受けたいんだけどどうすれば良いか』つて相談したんです」
「ええ」
「さうしたら、この韓国人がwww.heoz.comといふサイトを紹介してくれて、ここの電話レッスンを受け始めたつて訳です」
「そのレッスンは有料なんですか」
「さうですよ。1回10分×12回で7万ウォン。1回あたり5,000ウォン強つてことになりますが、高くもなし安くもなし、ま、こんなもんかなつて値段ですよね」
「受けてみてどうですか」
「いやあ。中国からインターネット電話で僕の携帯に掛けてきてゐるさうなんですが、音質がいまいち良くないんですわ。聴き取れなくて泣いてます」
「さうですか」
「まあ、劣悪な環境で聴き取りの力を鍛へておくと直に会つて会話する時にすごく楽になつてて自分でびつくりするんですけどね」
「ええ」
「あと、中国に住んでゐる中国人と会話をするんですけど、共通の話題がないんですよね。以前、韓国在住の中国人から電話レッスンを受けてゐた時は『済州島は良い所か』『三星の社員は聡明か』なんてことが話題に成つたりして良かつたんですけどね」
「この『水上歩行式会話術』つてのは何なんです」
「ああ、これですか。奥さんは水上歩行術はご存知ですよね」
「ええ、あれでしよ。まづ右足を水面に乗せる。右足が沈む前に左足を出す。左足が沈む前に右足を出す。以下繰り返しで水の上を歩くことが出来るといふ…」
「技術。それでですね、数年前にこの歩行術をヒントに僕が編み出した技術が『水上歩行式会話術』なんです」
「まあ」
「具体的にはですね、一般に外国語の会話といふのは話すことより聴き取りが難しい訳です。例へば中国人に『毎日忙しい?』と訊けば『忙しい』『あまり忙しくない』なんて答が返つてきますよね。かういふのは簡単だ。然し、若し自分がじつとしてゐると中国人が話し掛けてくる訳で、どんな質問をしてくるか見当がつかない。『家にクーラーある?』かもしれないし『日本はいま景気が好い?』かもしれないし『福岡に行つたことがある?』かもしれない」
「ええ」
「然もこの場合、『福岡』は平気で中国読みして来ますからね。聞いて分からない時が多い。これあ大変だつてことで、中国人とゐる時にはじつとしてゐないで先手先手で質問しまくるつてのがこの『水上歩行式会話術』なんです。質問内容は簡単な答が予想されるものにします」
「例へば?」
「いつ結婚しましたか、今日は何時に起きましたか、北京は好きですか、などです。逆に、『何故ですか』といふ質問はしないやうにします。へんちくりんな答が返つてくることがあるので」
「なるほど」
「兎に角相手に質問する隙を与へないことです。初めて北京に行つた時、この会話術で結構うまくいきましたよ。中国語をペラペラ話している自分、みたいな感じで気分が良いものですよ」
「さうですか」
「あ、さうさう。タクシーの運転手に『何曜日に休みますか』と訊いた時に『休まない』と答へられて、あれは困つちやひました。極端な話し、『毎日何時間寝ますか』と質問して『私は寝ません』と答へられたら困りますよねえ」
[2005-07]