一月ほど前。夕方が涼しくなり始めた頃のこと。
通りに面した安食堂の中を覗き込んだら、女子高校生の客がポツンと座って店内のテレビを見上げていた。この他にも客が二人いたのだが、いずれも黄色いシャツを着た中年のタクシー運転手であった。
この店はいわゆる「技師食堂(キサ・シクタン)」と呼ばれる店。簡単に言うとタクシー運転手御用達の店で、タクシー運転手が食事をとり、近くにあるトイレで用を足すところである。
ボクは技師食堂に女子高校生が一人座っているのを見て違和感を覚えた。その違和感はどこから来たものなのか。「おじさん運転手がいるべき所に女子高校生が紛れ込んでいることによる違和感」であろうと結論づけようとしたが、どうも無理があったようだぴょん。(←杉山氏:後日談)
恐らく、この女子高生はテレビ画面を見ながらボクに激しくメッセージを送っていたんだろう。「所詮、メシなんて安くてそこそこ口に合えばいいんだよ!」「タクシー技師ニムのグルメ感覚? ざけんなよ!」みたいに。
* * * *
ちょっと整理をしてみよう。
韓国には「技師食堂(キサシクタン)」というものがある。そこは文字通りタクシーの運転手(運転技師)が多く利用するところで、うまい店が多いとされている…。
でも、どうなんだろ。
タクシーの運転手がよく行く店イコール旨い店、ってのはタクシー運転手を買いかぶりすぎじゃないのか? タクシーの運転手は食品関係の仕事をしているわけじゃないし。
そもそも、タクシー運転手にとっては「トイレがあるかないか。どうなっているか」「車は停められるか」が大きな問題なんだろうし、味は普通であればOKなんじゃないのか。
一つあるとすると、技師食堂は車でしか行けない不便な所が多い。→店の賃貸料が安い。→材料にお金をかけられる。→安くて旨いものを提供できる。という論法なんだけど、どうも「→」が多すぎで不安である。
あとは、タクシー運転手はインテリアにこだわらない→料理本位の店が期待できる、かなあ。確かに、「スチュワーデス御用達の店」に比べて技師食堂はリーズナブルな店が多そうではあるけどね。
「技師食堂が旨いか不味いか、入って食べてみればいいじゃないか」って?
入って食べてみたさ。その店にも、その隣の店にも。それで旨くなかったから、こうやって技師食堂神話に異議を唱えているんじゃないか。
まあ、あれだな。
技師食堂の使い方としてはやはり、タクシーに乗っていて急にトイレに行きたくなった時じゃないのかな。
技師食堂がかたまっている地域に行ってタクシーを降りる。用を足して、技師食堂で簡単な食事をする。技師食堂はほとんどが一人客で会話もないし、酒飲んで大声を上げるおじさんもいないので、あまり面白いところではない。長居は無用。
で、食事が終わったら、またタクシーに乗るわけなんだけど、この時にタクシーをつかまえる苦労がない(手を挙げる必要さえない)ので、一瞬、「ああ、技師食堂で食事してよかった」と思うんだ。
[2004-09]