「ソウルに旅行に行った時、団体旅行から抜け出して俳句を作りに行こうと思っていますが、どこに行けばいいのでしょうか」
この種の質問を私に投げかけてくるのは決して間違いではありません。私は最適の人間ではありませんが、ある程度は答えられます。
まずは吟行地の定番、景福宮(キョンボックン)です。
景福宮はソウル市内にある王宮ですが、景福宮がなぜいいのかと言うと、第一に、日本人が期待しているような韓国(あるいは朝鮮)の姿があります。古い建物を見て、昔の韓国人に思いをはせることができる。屋根の形がなんとかだ、石畳がかんとかだ、などと言って、ちょっと格調のある句を作ることができます。
第二には、ここは観光地であって、日本人・中国人などの団体ツアーがやってくることです。ガイドに案内されて口をあんぐりさせて建物を眺めている日本人・中国人。「この人たち、何をどこまで理解してんだか」と思ってしまうわけですが、とりあえずこの人たちが俳句のネタにはなります。もちろん、ガイドさんも句材になる。売店や食堂なども馬鹿にできません。注意深く見れば、ネタはごろごろ転がっている。
この景福宮の類似品としては徳寿宮(トクスグン)があります。
見た目はほとんど同じ、植物的にもほぼ同じ。ただし、歴史的な思い入れやエピソードの面ではやや弱い。
この徳寿宮は、景福宮よりもソウル市民に近い存在だと思います。春秋の休日などには家族連れがゴザを敷いてくつろいでいるし、小学生の女の子が画用紙に建物と池の絵を描いたりしている。そんなところです。運がよければ「韓国なんとかの日」とか言って、昔の衣装をまとった人たちがイベントをしていることもあります。
そして、この徳寿宮に関しては、徳寿宮の外(裏)にある道もおすすめ。下校時にはアイスクリームを買う買わないできゃっきゃしている女子中高生(スカートの丈がなんとも微妙)に会える。
ロッテホテル、朝鮮ホテル、プラザホテルなどに泊まっていて、土日にちょっと時間ができた時などには、迷わず徳寿宮に行くべきだと思います。
景福宮(キョンボックン、またはキョンボククン)は六字、徳寿宮(トクスグン)は五字なので、吟行地を句に織り込む場合は徳寿宮の方が作りやすいのかも。もっとも、上五や下五に「景福宮」を置いても字余りは全く気になりません。
次のおすすめ吟行地としては、南大門市場。
いかにもアジア的であり韓国的である販売のスタイルがある。ヘンな商売人がいる。活気に満ちている。そして、市場は物を売り買いするところであると同時に、市場の人たちの生活の場であり、様々な表情を見せてくれる。音がする、匂いがする。
この南大門市場の類似品としては東大門市場があります。買い物をするなら東大門が、吟行をするなら南大門がいい。
市場の問題点として、季語が使いにくい、使う季語が限られてくる、ということがあります。これは各自の工夫で乗り切って下さい。
王宮、市場と来て、三つ目のおすすめは漢江(ハンガン)です。
漢江がいい理由は、「韓国人に愛されている川だから」です。それから、自然がたくさんある、動きがある、などの長所を挙げることができます。動きがある、とは、鳥が飛んでいたり、風でスカートがどうこうなったり、遊覧船がゆっくりと橋をくぐったり、とか、要するにそういうものです。動きがあるので、画になりやすい。ホント、俳句が上手で句がどんどん作れちゃう人はともかく、そうでない人は吟行地の選定に気を配らないとね。
四つ目以下のおすすめは特にありません。公園、お寺、大学の構内、近郊の山、などになってくると思いますが、あまり整っていないところに行くのがコツだと思います。表通りよりも路地裏へ、高級住宅街よりも下町へ。俳句作りに限らず、旅行全体の方針もこれにした方が面白いはず。
[2002-04]