ソウルの料理屋。夜8時ごろ。
12人掛けほどのカウンターの一方で、同僚と思われる4人の客が話しをしている。
男1、店に入って来る。最近どこかに旅行に行ってきたのか、日に焼けている。
4人連れとは反対の端席に座る。板前に注文する。酒と料理が出て来る。
男2、店に入って来る。眉毛も頭髪も薄い。安物のハーフコートを着ている。
端から3番目の席(男1の近く)に座る。板前に注文する。
男2、酒が出て来ると、猪口に注ぎ一息に飲み干す.。ため息。
料理に少し箸をつけ、また猪口に酒を注ぎ一気に飲む。ため息。
内ポケットから携帯を取り出し、掛ける。
信号音がよく聞こえないのか、男2は立ち上がって、携帯を耳にあてたまま入り口の方に向かう。店の外に出る。やがて見えなくなってしまう。
男1「(ああ、やられちゃったよ。食い逃げ。何の為に入り口の所に従業員を立たせているんだ?)」
男2は戻って来ない。
男2、戻って来る。
男1に話し掛けたい様子で、男1の方をちらちら見る。そして、
男2、酒を勧めながら、「これも何かの縁ですから、1杯どうですか」
男1、酒を受ける。
男2「私、今日、詐欺にあってしまいましてね。1億5千万ウォン、モーテルの契約金。敷地150坪、建坪350坪のエレベーター付き」
男1「ほう、それはまた」
男2「山の上から一日、望遠鏡で見ていたんだ。そしたらモーテルにお客が全然入って来ない」
男2「今日ナイフを買って来たんです」
男2、男1にポケットからカッターを取り出して見せる。
男2「俺もこのまま黙っているわけにはいかない。不動産屋に行って金返してくれって必死に頼んで、返してくれなければ、これでやるんです」
男2「俺はね、東大門市場でリヤカー引いて帽子屋をやってたんです。1億貯めるのは大変なんだ。10億あれば金は自然に増える。1億貯めるのは大変なんだ」
男2「新聞にね、犯罪者が出てますよ。人を刺した、殺したって。あれらは全部いい奴なんだ。問題はこの社会なんだ。社会が腐ってる。俺の言うこと、何か間違ってますか」
男1「いいや。その通りですよ」
板前、男2、男1に猪口を手渡し、何やら注ぐ。
男2「これは何?」
板前「まぐろのなみだ酒です。一息に飲んで下さい」
男2、男1、一息に飲む。
男2「これ、もう1杯づつ呉れ」
男2、ポケットから裸の金を50万ウォンほど取り出し、その中から2万ウォンを板前に渡す。
板前、男2、男1の猪口になみだ酒を注ぐ。
男2「まぐろのなみだ酒…。知ってますか、あの刺身包丁を新聞で包んで、それで人を刺してすーっと抜けば血は出ないんだ」
男2「ウチの義理の兄が東豆川の米軍基地で翻訳の仕事をやってるのよ。テキサスなまりの英語も聞きとって通訳するもんだから、アメリカ人は大拍手だよ。それで、一時はビルを5軒持ってた。ところが競馬にはまっちゃってさ、ビルも金も全部飛んでった。この前電話して、『どうしてる?』って聞いたら、『ああ、オレは爆弾が落ちて近所の家が全部潰れても大丈夫な家に住んでるぞ』って。これは何かと言うと、地下室に住んでいるんだよ。地下室に住んでる。わっはっは」
男1「(あ、ここは笑うところなんだ)あはは」
男2「オレは人相学を勉強したことがあるんだけどね。そうだな。お兄さんの人相はモトはいいんだ。特に眉毛が濃いのはいい。それはなぜか。眉毛が濃いのは上から苦労が降って来た時、眉毛で止めることができる。ただし、だ。今は良くない。今は黒雲がかかっている」
店に男3が入ってくる。ジャンバー姿で、両手をポケットに入れている。
男2「おうっ。今、こっちのお客さんと酒飲んでたんだ」
男3「タクシーに乗って来たぞ。兄貴、それで、一体どういうことなんだよ?」
男2「これを見ろよ」
男2、契約書を出して、男3と男1に見せる。
男2「弁護士に聞いたら、<これは法律上は完璧なものだ>って」
男3「やられたな、兄貴」
男2「刺身包丁を新聞紙で包んで刺せば血が出ないぞ」
男3「それより床屋のカミソリの方がいい」
男2「アキレス腱を切ってしまえ」
男3「兄貴、金づちで一発だよ。とにかく俺に任せろって」
男1、立ち上がる。
男1「お勘定!」
男2、男3、立ち上がる。
男2「アイゴ、失礼しました」
男1「いえいえ。またお会いしましょう」
男1と男2、握手をする。
男1、店を出て行く。
[2002-03]