韓国語に「ミッチンニョンのシーソー乗り」という言葉があって、これはどういう意味かというと、「狂女がシーソーに乗っている」「狂女をより強力にしたようなもの」という意味です。なぜシーソーに乗っているのか、なぜ男ではなく女なのか、などという点が謎ですが、なんとなく必然性が感じられないわけではない。
まあ、昔の若い女性は家の中にいる毎日で、シーソーで高く跳んでは塀の外の世界を見た、なんて話しとつながっているのでしょう。女性がシーソー遊びをするシーンは、昔の韓国を描いた絵によく見られます。
私が以前に作った句「狂女のごとブランコ漕げば山笑う」は、この「ミッチンニョン〜」を下敷きにしたものです。「何だよ、その句は。<ブランコ>と<山笑う>のW季語じゃん」とお思いの方がいらっしゃるかもしれませんが、何と言っても狂女ですから、ダブルトリプルなんでもアリ、ということでいいんじゃないでしょうか。
私がこれまで韓国で出会った「ミッチンニョン」を思い出してみると…。
延世(ヨンセ)大学の正門を入ったすぐの所で、おばさんが構内を行く人の靴に雑巾のようなものを絞って水をかけていた。
「きゃあ!」「アジュムマ、ミッチョッソヨ!?(おばさん、気が狂ったの!?)」 女の子たちはこんな風に反応して、通り過ぎて行きます。「このおばさんはなぜこんなことをしているんだろう」と振り返って考えたりしない。
このおばさん、何かに憑かれたように水をかけているという感じはしなくて、自分の仕事のように黙々と水をかけていました。
うーむ。このおばさんは掃除関係の仕事につけばいい仕事をするかもしれません。しないかもしれないけど。
ヨイド公園でモニュメントなどの写真を撮っていた時のこと。写真を撮り終えて次の撮影ポイントに移動している時、おばさんとすれ違いました。すれ違う前に、おばさんは私を指差しながら、「お前、撮ると死ぬぞ」
このおばさんは虚ろな目をして歩いていたわけではなく、トレーニングウェアのようなものを着てしっかり歩いていたので、「撮ると死ぬぞ」と言われた時、一瞬、公園の管理人かと思ってしまいました。なので、「背筋がぞくぞく〜っ」の感じはしませんでした。
このおばさんのおすすめ就職先は、コンサート会場入口でのカメラや録音機のチェック係でしょうね。鞄を検査した後、念のためこのおばさんが客一人一人を指差して呪いをかけておく。
地下鉄に乗っていた時、横の方から「シーバル、シーバル」(おま○こ、おま○こ)という声が聞こえてきました。
その車両は結構混んでいて、私はシートに座っていたのですが、声のする方を見ると、グリーン系のカシミアのコートを着た20代後半の女性が座っていた。で、その、割と清楚な感じの女性が、ややうつむいて「シーバル、シーバル」とつぶやいていた。
どこかに念力を送っている風ではなくて、息を吐くたびに自動的に「シーバル」と出てくるような感じでした。他のお客さんはどうしていたかというと、完全無視の作戦をとっていました。実際、そうするしかないでしょうけど。
この女性の場合、カシミアのコートと「清楚」がポイントだと思います。就職先は思い付きません。
なお、「シーバル」は「ちきしょう」みたいな感じでも使ったりする言葉です。「<ほっぺた>は韓国語で<シーバル>って言うんだよ」などとウソを教える韓国人がいるので気をつけましょう。
こう書いてくると、韓国にはミッチンニョンがたくさんいるように思うかもしれませんが、思い出せるのは上記の3人だけです。
男の場合は「ミッチンノム」と言うのですが、ミッチンノムは電車の中のひとり言おじさんの思い出しかありません。
[2002-01]