予感がしないわけではなかった。
鍾閣から安国洞ロータリーに向かって歩き、しばらく行ったところで右の路地に入る。鍾路一帯については詳しく知っているつもりだが、この路地を歩くのは初めてである。右手にイタリア料理の店があり、店先にランチの案内を出している。このイタリアンの手書きのメニューもなかなかに食欲をそそるものであったが、その向かいの中華の店に入ることにする。
一段高い所にガラスのドアがあって、中に入ると木張りの床。テーブルと椅子があるのだけれど、椅子はBクラスのカフェ用のそれであって、決して中華料理屋用のそれではない。午後1時という時間にふさわしい適度な客の入り。そして、客は圧倒的に普通の韓国人サラリーマンなのだが、客以外の項目は全てがどことなく奇妙な料理店である。
注文を終え、その後はストーブで身を溶かす。
そして、それが目の前に置かれたのであった。
ラーメン丼ではなく、日本の丼物のような器に入っている。口が狭く、高さがあり、こう出されてみると、他店と比べて量が多めなのか少なめなのかわからない。
麺はさわさわと、半透明である。弾力があることが見てとれる。スープはキス麺のスープの色に近いが、箸をつける前にしてその色はすでに爽やかに笑っている。「君たち韓国人や日本人にはこの色は出せないだろうね」と。
* * *
「何これ〜! この店は旨いと言いたいわけ?
「はい。とんでもなく。
「どんな風に?
「えっと。味の説明が上手に出来ないので、上の文章は食べる前の段階で終わっているわけですね。なんかこう、生姜が入っていたんですが、どうやったらあんな味になるのかわかりません。この店のうどんを食ってから、他の店のうどんは単なる塩っぱい料理にすぎないのだということに気がつきました。
「うどんを食べたんだ。
「3,500ウォン。ジャージャー麺やチャンポンを注文しなくてよかったですぅ。ジャージャー麺も店の個性が出るんだろうけど、ジャージャー麺はオリンピックで言えば規定演技じゃないですか。うどんは自由度が高いですからね。うどんで正解。
「中国人がやってるんですか。
「ええ。店名からしてそう感じますよね。中国のどこかはわかりませんが、ウェイトレスは韓国には絶対ない輪郭の顔で、韓国語が不自由でした。
「中国人がやっている店は多いんじゃないですか。
「多いですけど、店の人同士が中国語で話しをしているからといって、必ずしもその店がおいしいわけではありません。
「どうでもいいけど、このサイトって、いつも中国人をえこひいきしてません? いっそ中国に行ってしまえば? あと、キス麺って何ですか。
「キス麺も説明が難しいんだけど、韓国に住んで1年以上経つ日本人で、<キス麺は食べたことがない>という人がぞろぞろいたことがあって、あの時はちょっとびっくりしました。韓国に住んでいてキス麺を知らないのは、かなり迂闊なことだと思います。
あ、それから龍鳳菜館の場所ですけど、仁寺洞の迎賓ガーデンの向かいの路地を入っていくとわかります。上の文章と反対から行くことになりますね。
[2000-12]