2001年9月15日(土)、NHKBS2で「俳句王国スペシャル」が放送されました。内容がなかなか面白かったので、ここに書き起こしてみました。
但し、司会の段取り発言やその他、かなりの部分を省略しました。特に、(笑)(爆笑)は書いているとキリがないので省略。
また、単なる書き起こしではつまらないので、「杉久(さんきう)」の名前で、私の意見を無理やり書き足しました。(←大胆な試み。顰蹙を買いそうです。)
句会参加者(全八人)が句を一句づつ作り、全八句(無記名)の中から各自が好きな句を二つづつ選びます。(自分が作った句を選んではいけないので、実際には七句の中から選ぶことになる。) 業界用語で言うところの、「一句出しの二句選」です。
|
|
鈴木桂一郎(司会。出句・選句せず) |
|
|
大高翔(アシスタント。出句・選句) |
|
|
篠崎圭介(主宰)‥‥「糸瓜」主宰 |
|
|
星野椿‥‥「玉藻」主宰 |
|
|
金子兜太‥‥「海程」主宰 |
|
|
黒田杏子‥‥「藍生」主宰 |
|
|
津田清子‥‥「圭」代表 |
|
|
藤田湘子‥‥「鷹」主宰 |
|
|
宇多喜代子‥‥「草苑」編集長 |
※ 兼題は「糸瓜(へちま)」です。
子規居士の砦糸瓜を垂下して
お互いに糸瓜野郎の故山かな
糸瓜見に幼馴染がちょっと寄る
おのもおのも集ひしごとく糸瓜垂れ
待てど来ぬ人よ糸瓜の曲り癖
出かけずに糸瓜の水をとりにけり
風の道なりけり飄と糸瓜垂る
糸瓜棚城よりみえる町と海
糸瓜見に幼馴染がちょっと寄る
喜代子(選)「糸瓜というのは桜なんかと違ってわざわざ見にいくものじゃないですね。糸瓜のその飄逸とした感じが出ていると思いました」
翔(選)「日常生活のちょっとしたことなんですが、読んでいて心が柔らかくなるような気がしました」
圭介(選)「幼なじみ同士の心の触れ合いも窺えていいと思いました」
兜太「糸瓜が動くと思いますね。宇多さんは糸瓜が珍しいと言ったけど、宇多さんみたいに農業をやっている人が珍しいということがおかしいんで、ちっとも珍しくないわけです、糸瓜なんて」(注:「動く」というのはその言葉である必然性がなく他の言葉でもいいということ)
喜代子「珍しくないけど、これ、動きませんよ。梅とか桜なら覚悟して行くじゃありませんか」
兜太「<にがうり見に>なんかの方が面白いよ」
湘子「僕はねえ、<ちょっと寄る>ってのがちょっと何とかならないか、と思った。なんか俗な言葉そのまんまだからね。もう少し詩語としてしっかりした言葉で言ってもらいたい。狙いはこれでいいんだよね」
司会「津田さん、考え込んでいらっしゃるようですが…」
清子「いや、どこがいいのかな、と思って、今」
(場内笑い)
湘子「こりゃ一番きびしいな」
杏子「私は、ちょっと平凡なような気がします」
司会「この句はどなたの句でしょうか」
椿「大変に、ちょっと平凡な星野椿でございます」
司会「動くか動かないかということがありましたが、星野さんご自身はどうですか」
椿「この兼題が出ましてから鎌倉じゅうを探してみたんですけど糸瓜がありませんで、幼なじみとそんな話をしまして、そんなことからこの句が出来ました」
杉久「何それ〜。動く動かないの答えになってないじゃん。まあでも、これは糸瓜でいいですね。動くのかもしれないけど少なくとも許容範囲内だと思う。それより湘子先生の指摘した部分<ちょっと寄る>がネックじゃないだろうか」
おのもおのも集ひしごとく糸瓜垂れ
兜太(選)「これは糸瓜の様子がよく出てる。糸瓜の姿と言うか。糸瓜の質感が出てると言うか、そんな感じ。割合にあっさり書いているけど、これは作者が逃げてるんだと思う。でも上手くいってる」
杏子(選)「一句の手触りがとてもいいことと、糸瓜のある種人間くさい感じ、これが句に入っているんじゃないでしょうか」
圭介(選)「お二人に付け加えますと、糸瓜というとどうしても<ひょうきん>と捉えるのが多いんですけども、それをこのように捉えるのはよろしんじゃないかと僕は思いました」
椿「私は<おのもおのも>というところがちょっとわからない。字余りだし。そこがどうにかならないかと思います。内容はよくわかるんですが」
清子「私は三句目で選んでいました。<おのもおのも>というところに糸瓜の長い短いが見えて、この句、好感がもてます」
喜代子「糸瓜の垂れている様子がよく見えてますよね。同じこと言うようですけど、私も三句目にはチェックしてあります」
翔「確かに情景はよく浮かんできて、私は糸瓜棚をあまり見かけたことないんですけど、それを思い出しました」
司会「これはどなたの句でしょうか」
湘子「実質五点ですね、これは」
(作者は湘子)
司会「<おのもおのも>の部分の工夫についてはどうなんでしょうか」
湘子「<おのもおのも>ってのが出てきて、<あ、糸瓜になったな>と思って、それで作ったの」
杉久「作者本人も言っているように、この句のウリは<おのもおのも>の部分なのでしょうね。この場合、字余り云々は大した問題ではない。後半は軽く流しておいて正解です」
待てど来ぬ人よ糸瓜の曲り癖
椿(選)「糸瓜のひょうきんさって言うんですか? かわいい糸瓜の<曲がり癖>と言ったところに、ほっとするような感じを受けるんですね。その人(来ない人)の性格も浮かび上がるようで、<曲がり癖>と言ったところがとても上手いと思いました」
清子(選)「これは本当は糸瓜ではなくて待っている人なんですよね。いくら待っても来ない、と。ふっと目を転じると糸瓜がぶら下がっている、と。<あ、あの人はいつも来ない人やわ>というのと糸瓜が無関係にくっついた面白さだと思います」
翔(選)「私も、糸瓜と<待てど来ぬ人よ>が、関係ないようでイメージがつながるところが面白いと思いました」
湘子「これはさ、<待てど来ぬ人よ>ってのは<宵待草のやるせなさ>だよ。何とかしてよ」
兜太「これは恐らく意識して作っている。意識して上手く作った句だな。それより私はね、曲がり癖ってのが良くないと思う」
湘子「癖まで言わない方がいい」
圭介「それもあるんですけど、僕は具体的に待ち合わせ場所として糸瓜が垂れているってのはどういうところでどういう待ち方をしているんだろうかなって…」
杏子「ま、それは家で待っていてもいいと思うから、いいんですけどね」
司会「さ、この句はどなたの句でしょうか」
喜代子「はい。…<曲がり癖>はやっぱりまずかったなって、今思いますね」
兜太「いや、すぐ反省するところは宇多さんらしくないよ」
杉久「あら〜。この句を見た時、<癖>が言い過ぎてることに気がつきませんでした。兜太先生はさすがに鋭いわん」
子規居士の砦糸瓜を垂下して
湘子(選)「あのね、私の句を含めて今日の糸瓜の句はあまりよくなかったと思う。到底子規の句の足元にも及ばない。だからこの句を敢えてとったんですけどね。糸瓜らしくなくて作ってるところが面白い。<子規居士の砦>ってのは松山のことを言ったんだと思うんですよね。そういう発想の飛躍ってのがいいと思いました。わざと<垂下して>と言って面白さを出した」
喜代子(選)「子規と糸瓜ってのをこういう風に取り合わせたってのが珍しい。それと<糸瓜>って言葉が出ると、<垂れる>って言葉をひっつけていいかどうか一応警戒しますよね。<垂下して>というゴツゴツした言い方をしたところ、そこが評価が分かれるところでしょうね」
兜太「私の場合は、だからそこですね。砦ときて、垂下。語感が重過ぎるわ。だって中身はどうってことないんだもの。それをね、砦、ま、砦までは我慢するとして、<垂下する>はイカンだろ。警察に誰何されたか」
湘子「今日は私の句をとってくれたから、兜太さんには弱いんだ。今日初めてとってくれた、私の句」
椿「私も<垂下して>が気に入りませんね。砦と垂下に重圧感がありまして、糸瓜ってのはもっと軽やかで滑稽なものだから、ただ垂れるでもいいと思います。なにか他に表現があってもいいと思います」
杏子「言葉は並んでいるんだけど、ちょっと立体感がないというか、そういう感じですね」
圭介「作者は<砦>と<垂下して>にこだわっているんでしょうけど、私も逆の意味でこれにこだわって頂戴いたしませんでした」
司会「はい。ということで、この句はどなたの句でございましょうか」
清子「はい!」
司会「お言葉を…」
清子「いやね、出してから<しまった>と思ったんですよ。大体ね、私は題を出されて俳句を作るのは初めてなんですよ。糸瓜という題で俳句作れと言われるのは始めからヤなんです。だから、コテンコテンに作り上げてしまった」
兜太「だったらね、<糸瓜の垂れにけり>ぐらいじゃ駄目?」
清子「そうなんですよ。それで、出した後、<糸瓜のぶらさがり>にしようかと思ったんだけど、どうせ黙って通り抜けるやろ、と思ってね」
湘子「なんか、とったのが情けなくなってきたなあ。本人が尻込みしちゃ困るよ」
兜太「いやあ、正直でよろしいですよ」
杉久「おい、司会者! 作者を避けて感想を聞いて回ってるということは、事前に作者を知っちゃってるのか? 興ざめだぞ。それと、この際だから言わせてもらうけど、いつも<無得点句><無得点句>って言ってるのは、これから<無点句>って言いなさい。私ら野球やってるんじゃないんだから」
お互いに糸瓜野郎の故山かな
杏子(選)「愉快な句だったので頂いたんですが。人間的な感じも出てるし、糸瓜というものをなかなか上手く使ったと思います」
清子(選)「小学校の同級生という感じで、親しい感じがしましたから。糸瓜もこういう取り上げ方をしていいのじゃないかと思いました。糸瓜糸瓜糸瓜って糸瓜ばかりを追いかけるんじゃなくてね、故郷の糸瓜っていう親しみがあります」
湘子「糸瓜野郎ってことばは好きな言葉ですけど、作者の意図しているところが充分に感じ取れないという歯がゆさがあるね。<お互いに>の部分をもうちょっと明確にして欲しい」
杏子「<糸瓜野郎の故山かな>ってのは面白い句ですよ。<おのもおのも>とは別な意味で顔が見えてきますしね」
椿「私は糸瓜野郎って言い方がとっても面白いと思います。そういう言い方があるんだ、それは誰だろう誰かしら、なんてお腹の中で描いているんですけど。確かに<故山かな>ってのがちょっとひっかかります。<故山>じゃなくて故郷の感じがもうちょっとあってもいいんじゃないかと」
司会「金子さん、子供の頃は<糸瓜野郎>は使う言葉でしたか」
兜太「ええ、ウチの郷里じゃ普通に使いました。親しみを込めたりそしったり」
司会「松山ではこの言葉は…」
圭介「僕は聞いたことがありません。上品な土地柄ですから。それでね、僕も愉快だと思いましたが、<糸瓜野郎>は聞いたことがないので何となくあいまいでした」
司会「はい、この作者は…」
兜太「私です。あのね、<糸瓜野郎>は広辞苑に出てます。悪口言われるだろうと思って辞書ひいてきました」
杏子「金子さんの句ってのは、とてもいいんじゃないですか。顔がくっついてきます」
司会「カメラさん、金子さんの顔をアップで撮って下さい」
杉久「私は季語が効いていないような気がしてとりきれなかったのですが、そういう考え方は料簡が狭いかな、とちょっと反省しました。津田清子先生のお言葉どおり、こういう句もあっていい」
出かけずに糸瓜の水をとりにけり
兜太(選)「私は、子規の遺作を踏まえていて面白いと思いました。うん、そういう気持ち」
湘子(選)「さらりと作ってるけど、心がこもってるね。例えば、出かけずに庭に水を撒いたとか言うのとは全然違う、やっぱり糸瓜の水をとったな、という感じがしますね。姿もいいし」
司会「津田さん、昔は糸瓜の水をとったんですか」
清子「はい、五十年ほど前に。糸瓜の水とって化粧水にするんですよ。糸瓜コロン。私はこの句、いいと思いますよ。やさしくて」
喜代子「実感はあるんですけど、出かけても出かけなくてもいいんじゃないかと思った。でも、確かにある日を決めてとりますから、この日は出かけずにってのが大事になりますね」
圭介「僕もこの句の平明さがいいと思いました。しかし、僕も宇多さんの言うように<出かけずに>ってのが果たしていいのかな、って」
湘子「いや、僕は効いてると思うよ。出かける用があったんだよ。軽い仕事があったんだけどこっちにしたっていう、その辺の心の動きが見えますよ」
兜太「それもあるけどね。これは子規の句を踏まえてるんじゃない? 子規を悼む気持ちで今日は水をとりましたっていう。私はそうとった」
司会「作者はどなたでしょうか」
杏子「黒田杏子です。湘子さん、金子さんにとって頂いて嬉しいです」
湘子「うるさいのが二人とってるからね」
杏子「湘子さんはとるかもしれないかと思ったけど、金子さんはとれないんじゃないかと」
兜太「黒田さんってのはものの見方が狭いな。こういう句を俺がとるってのが分かってないんだね」
杏子「先生もどんどん変化してますねえ」
兜太「広がってる、広がってる。それからね、藤田湘子と私が一つの句をとったってのは珍しい」
杏子「そうですよ」
兜太「これは松山に来ての収穫だ」
湘子「今日は何となく合うんだな、金子さんと」
兜太「気持ち悪いことを」
湘子「帰り別々に帰りましょう」
杉久「どうってことない<出かけずに>が手柄なんだと思います。背景や心の動きを色々考えたくなってしまう句」
糸瓜棚城よりみえる町と海
椿(選)「私ね、こういう句を作りたかったの。糸瓜棚から何かが見える、ていう。この<城よりみえる町と海>は松山の感じですけど、ほんとうに素直で背景も見えますし、この句大好きな句です」
司会「津田さんは…」
清子「よう分かっていいと思います」
兜太「そりゃ誉めたのかい?」
司会「金子さん、どうですか」
兜太「まあ、確かに星野さんのような気持ちからすればとれるでしょうね。でも句そのものはどうってことない句で、今は高校生だとこのくらいの句はどんどん作りますね、うん」
圭介「この句は松山なんでしょうけど、糸瓜棚があるお城から見える町と海、と解釈すべきなんでしょうかね。そこらへんがどこで切れるのか分かりにくいところがあったりもするかな、と思いました」
(作者は翔)
翔「松山に初めて来た時の風景を思い出して作って見ました」
兜太「私、僭越ながら直してみました。<糸瓜棚そこよりみえる城と町>ってのはどうですか」
椿「いや、やっぱり海があるからいいんですよ」
兜太「じゃ城と海」
(城と海に落ち着く)
杉久「確かに高校生の句。直してどうこうなるもんじゃないと思います」
風の道なりけり飄と糸瓜垂る
椿「私これ、よかったとは思うんですけど、<風の道なりけり>とまで言わなくても<風の道>だけでもいいと思います。<飄と糸瓜垂る>はとてもいいです」
湘子「これはね、姿はいいけど、<瓢と>は要らないですよ。糸瓜だったら瓢なんだから。<瓢と>はなぞり過ぎというか、少し言い過ぎだと思うね」
清子「私は<糸瓜垂る>まで言わなくても糸瓜と風の道だけでなんとかならんかなと思います、はい」
杏子「私はこの句好きでした。<瓢と>はちょっと違う方がいいと思いますけど、<なりけり>は悪くないと思います」
司会「これは主宰の句ですね」
圭介「はい。みなさんの話をよく聞いて、考え直してみます」
杉久「これは誰が見ても<瓢と>が余計だと言うでしょう。風の道と糸瓜の関係はどうか、って部分で話し合われるべきなのに、予備選考の段階で落ちてしまってます。<なりけり>がいいか悪いかは、<瓢と>を直してからのお話です」
* * * *
この番組はゲストに主宰ばかりを迎えた豪華番組でした。一年に数回はこの種の番組をやって欲しいものです。
→ 第二部「秋高し」(N)
関連サイト:NHK「俳句王国」