がちゃんがちゃん!
びっくりしたかのように出入り口の上に吊るした鐘が鳴り、女が駆け込んできた。
赤い毛糸の帽子を目深にかぶった女だった。陳列台の間のT字通路を敏捷な足取りでやってきて、帽子をとりながら言った。
「おじさん、私知ってるでしょ?」
こちらが何かを答える前に、女の声がすぐに続いた。
「誰かが私に会いに来たら、見なかったと言ってよね」
ソンジェはぼんやりと女を見上げた。
女は入り口の方をちらっと見てから、ソンジェが座っている机の下に潜り込んだ。素早くためらいのない身のこなしだった。女はソンジェの脚の間に頭を突っ込んだ形になった。
ソンジェはすっと後ろに身を引いた。
「おじさんはそのまま仕事を続けて。私を見ないで。早く!」
さながら命令調だった。あっけにとられたが、先生のお言葉に従う小学生のようにソンジェはこくりとうなずいた。しかし、特にしていた事はなかったので出入り口の方を眺めた。ドアの上の鐘はまだかすかに揺れていた。
陳列窓の向こう側の通りはガラガラだった。人気がなくなる時間ではあった。その上、零下11度に急降下した寒く深い夜だった。
もちろん、ソンジェは女のことを覚えていた。女と言うよりは大人の真似をする少女と言った方が正しい。
女はひと月ほど前に店に現れ、ソンジェと何度か目を合わせたことがあり、一昨日初めて声をかけてきた。客と主人として言葉を少し交わしただけだった。
‥‥
■ チョ・チャンイン
ソウル生まれ。中央大学、同大学院卒業。現在黄海の離れ島で原稿を執筆中。